2011 JUNE
6/29 (WED)
最近父親が「au にしようかな」と言う。妹も「au にしようかな」と言う。両名とも今は docomo ユーザーだ。かつては Kashi.も docomo だったが、好きな女の子との通話をお得にするためと、当時付き合いのあったトヨタのディーラーが au 端末をお得に融通してくれるということ、その頃はまだ docomo が高かったということもあって au にした。
それ以来、au は「もうダメぽ」とか「庭オワタ」などと言われているが、個人的にはまったく不都合がない。電波については docomo と遜色ないところまで来ていると思うし、震災時の企業対応なども好ましい。よほどでなければこのまま au を使うであろう。
父、妹も似たような理由で家族全員が au になれば便利がいいと考えているようだ。今の時代、どのキャリアもものすごく料金に差があるということもないのだが、利用者同士が同キャリアというのは色々メリットが多いのは確かである。
ということで俄に周囲が au づいてきているのだが、個人的に今使っている端末に飽きが来た。色はシャンパン ゴールドでとても気に入っているのだが、なんとなく手放したいというか、もういいやという感じである。使い勝手が悪いわけではないのだが、カメラ性能はお世辞にも良いとは言えない。とにかくひどい画質である。それに WIN HIGH SPEED 前の端末であるし、処理も重たい。時はちょうど夏モデルがぽこぽこと出始めの時期である。それではと、au ショップにして状況調査をしてきた。
Kashi. 自身はまだスマートフォンには食指が動かぬ。iPad があれば十分だ。慣れの問題というのは多分にあると思うのだが、あの小さい端末でのフィンガー ジェスチャーは正直 Kashi.には馴染まない。フリック入力は画期的だと思うが、自分の場合、タッチパネルの入力は確実性に欠けるし、Android は端末による操作クオリティが違いすぎる。OS の小数点以下の値が 1 つあがるたびに「自分の端末はアップデートできるのか」とヤキモキするのも正直面倒だ。Android を少なくとも「あ、快適だ」と感じるのは SIRIUS や htc の海外製端末であって、日本メーカーのそれは、どうしてもストレスがある。iPhone/iPad の操作性を知っているだけに、我慢できない。機能や OS としての懐を考えれば Android なのだろうが、何度も日記やニュースで書いているように、iOS の操作感は完璧だし、OS とハードウェアが完全に融合し、他の追随を許さぬ感がある。
店頭に並んでいる最新スマホはソニエリの XPERIA acro と、シャープの IS11SH、htc EVO WiMAX ISW11HT であった。XPERIA は「まあこんなもんだろうな」という印象。相変わらず、ホーム キーが押しづらく、docomo から「iPhone キラー」として鳴り物入りで発売された時のガッカリ感に比べたら、遥かにレスポンスが良くなっていはいたが、それでも「こんなものか」という感想しか出てこない。何より端末に魅力がなく、愛せない (このあたりは極めて主観的であるから、ユーザーの方には申し訳ない)。
IS11SH はテンキー付きスマホという不思議な端末だ。これはちょっと面白かった。ガラパゴスからの乗換という意味では抵抗なく扱えるだろう。入力時、スライド式のテンキーをしまえば、ちゃんと液晶上にタッチパネル キーボードが現われる。メールなどで入力エリアを広く取りたい時にはテンキーを、ということが可能だ。だが、テンキーとタッチパネルとで入力キーの位置が異なったり、テンキーで入力している場合でも変換候補は液晶上のものをタッチせねばならず、指の移動範囲が極めて大きい。これではテンキーの意味がない。さらに、どうもバグではないかと思うが、改行マークのあるキーを押しても改行されず、別のキーで改行される。これはまったくいただけなかった。レスポンスとしては「まあまあ…かな」という感じであるが、せめてスライドではなく、折り畳み式にしていれば、これまでの携帯の操作性を維持しながらスマホの良さも享受できる端末になったのに。単に厚みがあるだけで使いづらいものとなったのは残念だと思う。
htc EVO はレスポンスとしては一番良かった。アイコンもシンプルで好感が持てるし、WiMAX 利用でテザリング可能というのも面白い (余談だが、店員が何度こちらがテザリングと言っても「あ、デザリングはですね」と言っていた。もっとも KDDI そのものが登録商標する際に「デザリング」とし、1 週間後に慌てて「テザリング」を追加したという話もあるから、よほど間違えやすいのであろう)。しかしながら、そこは海外製端末。利用周波数の違いから通話対応エリアが狭く、C メール送信も手作業でアップデートしなければいけないなど問題がある。
ということで、今の段階では購入しても良いと思えるスマホはなかった。唯一、気になるのはやはり INFOBAR A01 だろうか。こちらはまだ未発売であり、端末が登場してくるのは 6 月末であるから実機が触れなかったのが残念だ。デザインは好みが分かれるところだろうが、ホーム画面のパネル レイアウトは素晴らしい。他の端末が揃って iPhone のアイコン レイアウトの真似であるのに対して、かなりチャレンジングであると思う。カスタマイズ好きの Kashi. としてはかなりそそられる一品だ。チョコレート様のホーム ボタンも可愛らしい。ただしモックを触った感じでは、抵抗があり、少々押しづらかったが…。
人それぞれ、思うところ感じるところはあるだろう。しかし、スマホとしての出来はやはり iPhone には敵わない。機械である以上、使いやすくなければならない。Android は、多様性がありすぎてユーザーが混乱する。メーカーが「これ!」と言ったポリシーを打ち出せず、Google に振り回されているようにも思える。何より、OS の使い勝手がハードウェアの性能に依存するところがいけない。iOS は非力な CPU でもそのあたりを実に上手にごまかしている。さすがは Apple というほかない。
そういう意味ではずっと OS だけを作り続けてきたマイクロソフトの Windows Phone。こちらがどうなるのか、非常に楽しみではある。期待しているというわけではないが、興味は深い。現段階での少ないレビューを見る限りでは、かなり快適に動いているように見えるし、スペックだけ見るなら申し分ない。iOS で不満の残る、メールに添付された Office 系文書の閲覧も問題無いし、Exchange 連携も優秀であると思われる (そうでなければどうかしている)。日本メーカーが Windows Phone をどのように展開していくか、その動向には注目したいところだ。
…とまあ、こういったワケで、ものすごく興味はあるものの、Kashi. は未だにガラパゴスでいいなと思ってしまうのである。スマホ向けのウイルスもじわじわと出始めたし、アップデートにいちいち PC を利用するのも面倒。iOS にしろ、Android にしろ、バージョンアップの度に一喜一憂し、セキュリティにもいちいち気を遣いながら、すべって落とした時の対応にもハラハラしなければならぬ。液晶むき出しはやはり怖いし、防水だって欲しい。何よりバッテリーの持ちが悪いというのは現在のスマホすべてに共通する課題である。Kashi. は割と長電話をするほうであるからバッテリー問題は重要だ。
そしてスマホは便利すぎる。楽しいおもちゃであると思えばいいが、Kashi. の性格上、依存してしまう可能性が極めて高い。通信環境や、デバイスはいざという時を考えると分散しておきたい。そのことは震災で十分に分かった。そういう意味では、ガラパゴスは円熟期に入り、安心度が高いのである。au の WIN HIGH SPEED は、CPU が snap dragon 搭載の端末であれば、まったくストレスの無い速度をたたき出してくれるし、折り畳み式はキーボードを叩きながら、肩に挟んで会話出来るのもありがたい。
百花繚乱の感があるスマホ ブーム。テクノロジの進化を見るのは楽しいが、本当に自分に必要なものは何かを考え、無駄のない利用を考えたい。もっとも、これだけ周囲がスマホを使っていると、ちょっと羨ましいなんて思ったり、そわそわしてくるのも事実だけれど。ああ、INFOBAR どうなのかなあ。
6/28 (TUE)
入院中は WiMAX を試用レンタルしていたのだが、これがえらく快適であった。iPad を常用するのであれば、安定せず重たい softbank の 3G なんかよりも、高速でそこそこ安定している WiMAX のほうがいい。これがあれば自宅のネット環境はすべて集約できてしまうし、コスト的にも半分以下である。離婚したら今加入している so-net は解約してしまおうと思っている。どうせプロバイダ メールにはエロスパム メールしか来ないし、web スペースを使っているわけでもないから、解約してしまってもなんの痛痒もない。
一昔前までモバイル通信といえばイー・モバイルであった。が、正直使い勝手が良いとは言えないし、速度についても満足できるものではなかった。が、WiMAX はこのあたりを凌駕しているように思える。モバイル ルータとして利用するのであれば、(もちろんベスト エフォートであるが) WiMAX は下り最大 40 Mbps、em は 21 Mbps である。また WiMAX の場合、モバイル ルータとしてだけでなく、自宅利用も考慮して、有線 LAN ポートのついた製品もある。これであればデスクトップ PC での利用も問題ない。
iPad のプリペイド料金が 1GB プランで 4,725 円。so-net のプロバイダ料金が光回線使用料金も込みで 5,500 円程度。WiMAX に一本化すれば利用制限無しで月額 3,750 円である。面倒な配線も無し、シンプルな回線利用でコストも半分以下となれば十分検討に値するというものだ。唯一の不安は、政令指定都市以外の貧弱な対応エリアだが、そんなにあちこちに行くわけでもないから、これでもいいのかな…。今の日本、どうにかこうにかすればネット環境はなんとかなるものだし。
もう少しだけ検討は必要だが、そう遠くない将来一人暮らしを始めたらホントにこれで十分だろうな。ルータの電源入れてパスワードを入れたら接続完了。やー、すごい時代になったものだ。
6/27 (MON)
…とまあ、あれこれと入院生活について書いてきた。結構のんびりやってたんだなという部分もあるのだが、それはそれとしてベッドの上で寝ている時には色々と考えることもあった。そりゃあそうだよなというか、ここ 1 年、こうも立て続けに色々あったのでは気持ちも沈むというもんである。そんな心境がそうさせたのか、今日、夕飯の買い物をしようと街に出るとフイに占いの看板。人生で卦を見て貰ったことはない。が、「まあいいか…」という気持ちで席につく。
占いは九星気学というやつで、細かいところは省くが、結果的には「最悪」であった。昨年の 2 月から今年の 2 月まで運気は最低で「暗剣殺」であるとまで言われた。あらゆることが上手くいかず、周囲の人間関係も悪化、唯一の救いは住まいを所沢から実家のある中野に移したことであり、これが吉の方角であったという。正直 42 歳の厄年まで上昇は望めないので、できるだけ早くお祓いを受け、-10、-20 となっていくものをせめてゼロで食い止めるしかないと言われる。
ちょっと待て、占いてそんなに救いがないのか。ここまで言われるともはや笑うしかない。ま、それならそれでも良かろう。どうせ一人である。やけっぱちになるつもりはないが、もうアレコレ下手なことを考えてもしょうがない。けちょんけちょんな評価ではあったが、これまでの人生、何故か金だけはなんとかなってきた。無くなりそうになると仕事が来る。この運がまだ残っているのであれば、とりあえず生きていくくらいの金はこの先もなんとかなるだろう。がむしゃらに仕事をするのも疲れた。少なくとも夏の間は仕事をする気は起きない。
占い師に「ある程度怪我が治ったら、友人を訪ねて遠方に行きたいんですけど」と尋ねると「それなら 9 月後半から 10 月いっぱいくらい。11 月 8 日までには帰ってきてください。あと 12 月 25 日なら運気があがってる」と言われる。それなら丁度いい。クリスマスはどうでもいいとして、初秋の頃の旅行は最初から計画していたことだ。まずは傷を癒すことにしよう。
…などと書きつつも。
実のところ、そこまで占いの結果は気にしておらず、ちょっと悔しい程度である。人生には巡り合わせというものがあるし、どうしたって運の悪い時はある。Kashi. の場合、人様よりもそれが多いような気もしなくもないが、きちんと思い返すとそれだけでないことも確かに多い。ドン底にいる時は人を妬んだり嫉んだりしたくなるものということか。
これまでは多忙にかまけて…というか事実そうだったのだが、がんじがらめで不満があっても動けなかった。が、今は幸いそれなりの時間がある。となれば、ブツブツ暗いと不平をもらすより、進んで灯をともしましょう…ということで、色々やりたいことをやってみればいいのではなかろうか。
時に生きる気力も失いかけるけれど、レディーガガも「大変な時はまず動くこと。その大切さを知ったわ。日本ラブ」と言っていた。人生生きていれば「なんとかなる」し「どうにかなる」とも思う。今はまだ少ししか歩けないが、少しずつ、少しずつ。先はまだ長い。
6/26 (SUN)
入院生活ネタでもうひとつ。入院中、何が困ったかというと、やはり風呂であった。読者諸氏は 5 日風呂に入らないと自身の頭髪がどのような匂いを放つかご存じでない方もおられよう。Kashi. は知っている。若かりし頃、泊まり込みで仕事をしていた時はそんなことは日常茶飯事であり、仕事でミスをした人間は同様に泊まり込んでいる同僚の頭の匂いを嗅がねばならないという罰ゲームがあったほどだ。そうした匂いを嗅ぐと人は腹が立つほどなのだ。
よりによって怪我をした前日は徹夜仕事で入浴していなかった。そこから術後 5 日間は洗髪無しであったため、約 1 週間の無洗髪。ああ、なんというクササとカユサであろう。「くささ☆カユサ」とか書けばごまかせるであろうか。いや、ダメだ。ごまかせない。何せ「Kashi. さーん」と看護師に呼ばれ振り向くだけでクサイ。幸いにしてその呼びかけは「今日頭洗いますからね」というものであり、大変に救われる。
さて洗髪はこれでどうにかなったが、臭くなるのは髪の毛だけではない。ということで風呂に入りたいが、そうはいかない。入院中の入浴は当然ながら患者の傷の状態によって異なるが、Kashi. の場合、開放骨折ということで縫合した跡が完全につくまでは、傷口から骨髄への細菌感染を防ぐために水濡れは厳禁なのである。とはいえ、季節も季節であり、このままどんどん臭くなっていくのは病院としても困るのであろう。「これで体を拭いてくださいね」と数本のおしぼりが渡された。
漫画などではうら若い看護婦さんが全裸になった患者の体を拭いているうちに、なんだかこうナニがああなって、ウッホーみたいな展開が描かれているが、現実にはそんなことは皆無であった。左手が機能しているんだから、背中以外は全部自分でやりなさいとのこと。大変につまらぬ思いである。だが、男性の看護師さんの話によると、病院によっては若いイケメンの場合は、看護師が競って体を拭いてあげることもあるという。一瞬、そんな病院に入りたかったと思うも、若いイケメンという条件から大きく外れていることに気付き落胆する。
その後は無事入浴が出来た。2 週間ぶりに入る風呂は最高の気分である。湯船にはフチいっぱいまで湯が張ってあり、浸かると余剰の湯がザバーと流れてお大尽気分だ。ぜひ皆様にもこの快感を味わって頂きたい。簡単なことだ。2 週間風呂に入らないでいれば OK である。ぜひお試しを。
6/25 (SAT)
明日と言いながら日が開いてしまったけれど、入院編を。
入院生活というのは非常に規則正しい。毎日の生活サイクルを記してみると、朝 6:00 起床、8:00 朝食、8:30 リハビリ開始、12:00 昼食、18:00 夕食、21:00 就寝。
延々これの繰り返しだ。しかしこれはあくまでコモン スケジュールであって、実際には 4:30 ~ 5:00 くらいには目が覚めてしまう。これにはもちろんワケがある。
Kashi. の病室は目の前がトイレであって、しかも整形外科という病棟の特性上、年配の人が非常に多い。足や腰などを悪くしている人たちが多いため、歩行の補助として松葉杖や歩行器を使う。結果としてガチャリガチャリと音がし、さらにトイレの扉を開けると煌々と照明が射し込んでくる。病室というのは安全上の理由から扉が開きっぱなしだ。プライベートとパブリックはたった一枚のカーテンで区切られているだけ。しかしカーテンに遮光性がないから、用足しのある人が通るたびにガチャリピカーとなり、眠りが浅い時には結構目が覚めてしまうのだ。得てして浅い眠りというのは明け方近くであるうえに、この季節すでに窓の外は明るくなっているものだから、一度目が覚めてしまうともうダメだ。
日常生活であれば、そこからお湯を沸かしお茶を飲み、着替えて散歩…なんてこともできるが、病室ではどうにもならない。煙草を吸いたくとも、玄関は施錠してあって表に出ることもままならぬ。故に 6:00 までの 1 時間半、本を読むかエロサイトを見るかくらいしかやることがないのである。
ちなみに入院中の通信環境であるが、当然そんなものはないのである。ということで 3G 回線を使って iPad によるネットサーフィンになるのだが、たちまち通信上限のアラートが出てしまった (Kashi. は iPad をプリペイド契約しているのである)。これは弱った。ということで、入院 10 日後くらいに外出許可が貰えた折に、駅側のビッグカメラまで行って、Wi MAX の試用レンタルを申込み、モバイル WiFi ルータを借りてきたのだが、これは非常に快適であった。早いし、安定しているし、何より利用方法がシンプルで良い。
その頃になると、隣のベッドに新しい住人として N 君が入院してきた。20 歳の大学生だったが、呑み会で盛り上がり力比べに腕相撲をした瞬間に上腕骨螺旋骨折と相成ったらしい。たかが腕相撲で骨折かよ!と思うなかれ。他にも腕相撲で骨折し、入院していた人がいたのである。リハビリ士に聞くと「あー、腕相撲?よくあります」とのこと。負けまいという気持ちが先に立ち、限界を超えたところから力を込め、時には体重全部を腕一本に勢い良く乗せてしまうため、たやすく折れるらしい。
とにかく入院中というのは暇であることと、同室の人間とは仲良くしておいたほうがよろしいため、色々と話をしてみると気の良い青年である。iPhone を使っていたので「WiFi に乗っかって貰っていいからね」というと大変感謝される。なにせ本を読むにしても限界というのはあるもので、何時間もぶっ続けで読める本というのは中々ない。大抵の場合、読書というのはお茶を飲みながらだったり、煙草を吸いながらだったり、と意外に「ながら」になると思うのだが、いかんせん右手が死んでいるとこうしたことができない。リラックスできる姿勢というのも限られてくるし、そうなると一番暇を潰せるのは映像であり、テレビ視聴には金がかかるため、じゃあ YouTube でもとなるのは今時であろう。となると、WiFi は非常にありがたいのである。
N 君は今時の若者には珍しく車が好きであるという。S15 に乗り、ズルズルとタイヤを滑らせているとのこと。Kashi. とは微妙に世代が違うも、色々話が合うところも多かった。他にも就職の話だの、女の話だので盛り上がり、修学旅行の夜のような会話で、退屈な入院生活の潤いになった。お互い怪我の箇所が同じということもあって、連帯感のようなものもあったと思う。
N 君は Kashi. が 39 歳だと告げるとひどく驚いていた。「とてもそんな年齢に見えない」という。これは色々な人に言われることなのだが、時に複雑な思いだ。年齢相応の大人らしさがないということであるし、自分が子供じみているんじゃないかと思ってしまう。もっともまともな就労経験もなく、狭い業界で特定の人たちとの付き合いが濃いような仕事の仕方をし、友人同士との交流にもなかなか時間が割けないとなれば、第一線でバリバリやってきた同年代に比べれば老けるのも遅かろう。入院中はそんなこともよく考える。
そのあたりはまた別項で触れるとして、ともかく N 君とは色々よく話した。また担当してくれた執刀医も同じだった。このドクターというのが実に美人なのである。ほんとにこの人がメスを持ち、骨を繋いでくれたのかと思うとちょっと驚きだ。で、このドクターが毎日回診にくる。そのたびに N 君と「やっぱいいよな」などと話していたのだが、Kashi.の退院も近くなったある日、彼が「退院したら飲みに行きませんか」と言ってくれた。こうした誘いはなかなかに嬉しいではないか。倍も年齢が違う平成世代に疎ましがられず、プライベートでの誘いを貰えるのだから、捨てたものではない。
ならば、と「どうせなら先生にも声かけようぜ」と提案する。中年よりは若い方がいいだろうということで N 君にミッションを課すと見事に達成。「OK もらいましたよ!もちろん Kashi. さんも一緒です」という。よくやった、N 君。お互い完治は無理にしても、出来るだけ機能回復してネクスト ミッションに備えようと誓い合う。気が合えば、男同士年齢は関係ないということなのかもしれないな。
6/23 (THU)
ちょうど 1 か月前のことを今記すというのもおかしな気分であるが、昨日の続きから。
朝になると術前準備としてあれこれ体調を調べられたり、点滴を入れられたりする。痛みはあるっちゃあるのだが、鎮痛剤が効いているのかさほどでもない。午前 9 時すぎくらいになると看護師さんの「じゃこれからいきますからね」という合図でストレッチャーに乗せられたのだが、この時が一番痛かった。どうも事故の際にあばらも強打していたらしく、骨折ほどではないが、打ち身のひどいやつみたいな痛みが体を起こす度に起きる。
手術室はヒンヤリして薄ら寒い。簡単な説明を聞くと、どうも俯せになって手術されるそうだ。僅かな動きでもビシリと痛むこの体でそんなこととても出来ないと思っていたが、麻酔が効いている間にやるから全然問題無いらしい。麻酔医は「今、眠くなる薬が入りましたからね」などと言うが、いつ入れたのであろう。点滴をいつの間にか切り替えたということであろうか。こちらが「眠くならないとかそんなことにはならないですよね」と尋ねると「そしたら量増やすだけですよ」と聞いた会話が最後で、次の瞬間には病室にいた。
麻酔恐るべしといったところだろうか。気がつくとこの季節にも関わらず電気毛布にくるまれている。全身麻酔というのは要は仮死状態であり、麻酔医は患者が落ちた時から生殺与奪のすべてをコントロールしているとのことで、麻酔によって呼吸は止まるわ体温は落ちるわ血圧はどうだ麻酔深度はどうだといったものを術中ずっと監視しなければならない。眠りが醒めない、しかしきちんと目覚められるだけの量を常にモニタリングするというのだから、すごい仕事もあったものだ。まあそうしたことで、低体温状態になっていた体を速やかに温めるために電気毛布を使うのだという。
さてここからは記憶曖昧祭り。麻酔のおかげなのか、父親が立会人としていたはずなのだが、まったく会話をした覚えがないし、いつ帰宅していったのかもわからない。19:00 頃、仕事関係の知人が見舞ってくれて、それ自体は覚えているのだが、何を話したのかさっぱりわからず。まあ事故の様子や傷の具合なんかを話したのだろうとは思うのだが。あとで聞くところによれば「本当に怪我して手術までしたのかと思えるほど、よくしゃべっていた」とのことなのだが、記憶は時空の彼方に消えていってしまったようである。
地獄はここからであった。つまり麻酔が切れてきたということなのだが、夜中の 22:00 くらいからだんだんと気持ち悪くなってくる。吐き気とかではなく、お腹が緩い時に腰のあたりがザワザワするあの落ち着かない感じのもっと重たい版。腕もどうも痛いようなのだが、たとえばカッターで切ったとか、頭痛とかそういう類の痛みとは異質のもの。痛みそのものは我慢できなくもないのだろうが、とにかくどんな体勢を取ろうと、何を考えようと辛い。何が痛みで何が辛いのかが分からないのだ。嫌な感じ、としかいいようがない。そしてこれを朝まで我慢しなければならないのかと思うと負担が大きすぎる。
ということで白衣の天使を召喚し、治癒魔法である座薬を打ち込んで貰う。あぁん、見ないで。などという余裕は無し。向こうも手慣れたもので、スルリという感じ。ああ、これでやっと少し楽になれる…と思ったのが、これがちっとも効きやしない。恥のカキ損というやつであろう。0:00 を回った頃もうダメ、という気分になったので再び召喚。今度は上位魔法の筋肉注射だ。「この注射はかなり痛いので我慢してくださいね」と天使。かまわんからブスリとやってくれと覚悟を決めたが、さほどの痛さでもない。ハテ?と思うも、こちらはちゃんと効いてくれた。比較的短時間で気分がすーっと楽になり、いつしか眠りに落ちていたのであった。薬ってすごい。
ということで、続きはまた明日。入院生活編へ。
6/22 (WED)
さて、今回は本当に堪えた…。既に告知の通り、骨折で更新をお休みしていたが、そのあたりの経緯をば。長くなるので、何回かに分けて記したい。
5 月 23 日、雨。Kashi.は当日どうしても提出しなければならないデータがあったのだが、この制作が圧しに圧してしまい、13:00 開始予定だった打ち合わせを 18:00 にずらしてもらい、それでも 15 分ほど遅刻してしまいそうな状況だった。
一日中食事も摂れないまま、なんとか形にしてドアを開けると小雨交じりの夕暮れで、帰りの頃は本降りになると思われた。
こうした場合、いつもであれば当たり前のように徒歩で駅まで向かう。が、ただでさえ延ばしてもらった打ち合わせに遅刻しそうということもあり、帽子を被り自転車で駅まで向かったのだが、やはり気持ちが急いている時は判断が鈍くなるのであろう。帰りに必要だよなと、閉じたままではあるが傘を左手に持って出発したのがしくじりであった。
川沿いの遊歩道、緩やかなカーブでアクシデントは起きた。何かで前輪がキュッと微妙にブレた瞬間、持っていた傘の先端が振れ、前輪のスポークに絡みつき、急制動状態。いわゆるジャックナイフ状態で、慣性の法則がバリバリに効いている自転車はその車重の軽さも手伝って一気に後輪が浮き、Kashi. は思い切り空中に投げ出されてしまった。こうした時は脳のクロックがあがるようで、眼前に近づく地面が見え「あ、これは危ない」と思いながら身をよじったのを覚えている。
叩きつけられた瞬間は強烈な衝撃だった。漫画のセリフなら「~~~~~~ッ!!!」と声にならない叫びと呻き。とにかく息は詰まりかけていて体が動かない。絞り出すように息を吐き、なんとか体を起こそうとすると右手に激痛が走る。見てみると腕が後ろにグニャリと曲がっており、明らかな異常。最低でも骨折というレベルであった。とにかく、倒れた自転車を左手のみで起こし、なんとか身をよじって背負っていた PC バックを道の端に寄せたが、何かアクションを起こすたびに強烈な痛みが走る。やっとの思いで左手で右肘を押さえて体位を固定するのが精一杯で、そこから先は一切左手を離すことが出来なくなってしまった。
なにせ、左の掌にグズグズと骨が砕けている感触が伝わってくる。これはヤバイという感覚しかない。もうどんな体勢になっても痛い。地面に両膝をついたり、植え込みに寄りかかったりしてもどうにもならぬ。立っているのが一番楽だった。このあたりから体がじわりと濡れてくるのに気付く。雨のせいもあったろうが、脂汗がすごい。さらに見ると右肘を押さえている指の隙間から血がボタボタと零れている。
「うわあああ…」と心の中で叫びながら、そうだ救急車、これはもう救急車だと携帯を取り出そうと思ったが、生憎と右の尻ポケットであり、まったく取り出せない。そもそもとして左手がどうしても右手から離れるのを拒否するのである。すでに事故から 10 分 (くらいだと思われる。体感ではもっと長かったが…) 程度が経つが、こんな時に限って誰も通らない。もう心細いのなんの。恥も外聞もあるかという思いで、「誰かー。すみませーん…、助けてくださいー…」と俯きながら声を上げ続ける。ハッキリ言って危ない人のようだが、危ないのは本人であり、もうどんどん気が遠くなりかけていくのだ。とにかく痛い。ひたすら。
そうしているうちにやっと通りがかってくれた中年男性が声に気付いてくれた。「どうしたの?」というので状況を伝え、救急車の手配を頼むと「お、俺、携帯使ったことないんだ。持ってもいない」とオロオロ。それではと自分の携帯を尻から抜いてもらい、「119 と押して…そこから左の受話器のマークを…それでかかりますぅ…」などと答える Kashi.。なんとか消防に繋がり、おじさんが「もう大丈夫だよ!救急車来るよ!」と励ましてくれたのがありがたかった。
しばらくしてサイレンの音が聞こえてくる。おじさんが「俺、誘導してくるから!」と言ってくれたは良いものの、一人きりとなりなんとも心細い。その間、2、3 人の通行人がいたが、全員こちらを一瞥しては去っていく。なんということでしょう。東京砂漠もいいとこだ。ええい、薄情者めと思ったら「あらぁ!どうしたの!」とミニチュア ダックスを散歩させているおばさんが登場。「救急車は呼んだ?あ、そう?痛む?どうしましょう」と言ってくれ、若干気が紛れた。しかし、犬がこちらに興味津々。まさか、流れる血の匂いに反応してるんじゃないだろうな。愛玩動物とはいえ、過去に犬が狼に変わる瞬間を何度も目撃している Kashi. としては、飛びかかられやしないかと気が気ではなかった。この状態ではそんなことになれば、無抵抗のまま喰われる。
なんとか犬が我慢してくれている間に、やっと救急隊が到着。状況を説明すると「あー、これは出ちゃったかな」「開放でしょう」などと、ゾッとしない会話。「骨が出たんですかね」と尋ねると「んー、でもまだわかんないし、お医者さんに診てもらわないとね」と断言を避ける。とりあえず腕固定したいんだけど、上着脱げる?と言う。いや、そいつあ出来ねえ相談だ。無理でげす、と言うと「じゃ、切るね」と容赦なくウィンド ブレーカーをハサミでやられてしまった。しかし、ガーゼと添え木だけでなんという安心感であろう!痛みはまったく変化ないが、救急車に乗り込むことでだいぶ気が楽になった。…が、今度は受け入れ先が決まらぬ。これが医療現場の問題なのだなーとボーッとしていると、隊員の片に「じゃ質問するからね」と住所、氏名などのプロファイルを取られる。ここで意識の混濁がないかなども診ているのであろう。その後はどうしたわけか話がしたくて「お仕事長いんですか」とか「もっと重傷の人とかいるんですよね」などと尋ねていた。隊員の方は「おや、余裕あるね」とか「まあ、もう長いねえ。生き死にに関わる人も何人も見たよ」と答えてくれた。
やっと決まった搬入先は池袋の某病院であった。とにかく父親と取引先各社に電話。朦朧としながらも、それだけは済まさねばならぬ。皆、一様に驚いていたと思うのだが、実はこの日から数日分、記憶が非常に曖昧で、よく思い出せない。手術は明日の朝イチからであるという。事前準備としてレントゲンを撮られたが、これが何より一番痛かった。どうしてレントゲンに人間が体勢を合わせなければいかんのか。ドクターは容赦がなく「はい、もっと曲げて」とか「今度は上向けて伸ばして」などと言うが、到底できるようなものではない。もうホントにミリ単位で動かすだけで激痛なのだ。「ほら、こう」と腕を持たれた時は、さすがに「うわあああ!」と声が出た。テメエ、コノヤロウ、一回骨折直後の罹患部にダイレクトに触られてみろよ、クソッタレと本気で呪詛を吐く。もちろん心の中でだ。
レントゲンのあとは消毒。格安焼酎大五郎並の巨大なボトルの消毒薬と、ケーキでも作るのかというような大きなボウル。そこに入れますのはクランケの傷でございます。そうしましたら、よろしいですか。とにかく消毒薬をバカみたいにぶっかけて洗ってください。感染していたら大変ですからね。…といった治療をやられ、身悶えする。着ていた服は全部切り裂かれてしまった。ガーゼをはがすと、血が飛び散り、床やレントゲン ベッドを汚してしまった。まあよく出ること。
なんとか消毒が終わったあとはギプス装着。痛み止めと点滴 (恐らくは抗生物質) でなんとなく楽になったのか、不思議とそこからはすぐに眠った記憶しかない。父親が来て会話をしているはずなのだが。爪を切られたり、安いラブホテルのガウンのようなものを着せられたり、ふんどしを履かされた記憶もあるのだが、その順番が前後している。もう脳が大混乱していたのだろうな。
続きはまた明日。次回、手術編。
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※過去ログは追々体裁を整えてから公開していきます。
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